先般米国の収集家より写真と共に、帝国陸軍無線機材の電源に関わる型式確定の依頼があった。 本装置は数千ボルトを発生する高圧電源で、銘板は剥がされていたが、その構造から陸軍の航空機搭載用レーダーを構成した電源と推察された。 しかし装置は非常に小型で、また、その電力容量も小さく、本機が大きな電力を必要する哨戒探索用レーダーの電源で無いことは明らかであった。 戦中帝国陸軍は多くの機上用レーダーを研究したが、実用された装置は哨戒用の「タキ1号」、夜間戦闘機用の接敵レーダー「タキ2号」の二機材である。 当館(横浜旧軍無線通信資料館)は幸いにもタキ2号の前期型送信機及び変調機、変調機を内蔵した後期型送信機を所蔵している。早速両送信機を調べると、後期型送信機の接続コネクターの構造が、調査依頼電源のそれと、完全に一致することが判明した。 このため、当該装置は帝国陸軍の機上用接敵レーダー「タキ2号」の後期型構成電源である、との結論を得たが、期せずして本機の電源を発見する事となり、誠に幸いであった。 タキ2号は生産、配備台数が非常に少なく、当館は本機の電源を所蔵していない。この稀少な機材を米国の収集家が所蔵していた事を知り、小生は誠に驚いた。願わくば、本電源の入手をと考えるが、現在の所、先方との交渉は行っていない。「タキ2号」補足 本機は帝国陸軍が1944年(昭和19年)の初頭に開発した夜間戦闘機用の接敵レーダーである。. タキ2号はデシメートル波を使用した等感度測定式レーダーで、空中線装置、送信機及び受信機、波形表示を行う指示装置及び電源装置他により構成されている。タキ2号には原型の1型、大戦末期に配備が進められた2型及び、試作段階の3型があるが、その導入についてはハッキリしない。 なお、タキ2号の運用については、1944年(昭和19年)に陸軍航空工廠に於いて、二式複式戦闘機「屠龍」の胴体上面にホ5(20mm機関砲)を上向砲として装備し、併せタキ2号を搭載した機体が10機整備されたとの記録がある。また、タキ2号の前期型はフイリッピンで米軍により鹵獲され、記録と写真が残っており、前線への配備は確実である。タキ2号2型緒元用途: 夜間戦闘機接敵・射撃管制測定項目: 方位角・仰角・距離有効距離: 約5km周波数: 375MHz繰返周波数: 3,000Hzパルス幅: 1.5μs送信尖頭出力: 2kW送信空中線: 3素子八木受信空中線: 3素子八木4基送信機: 発振SN-7 (P.P.)変調方式: パルス変調、変調管UY-807A受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅無し、周波数混合(UN-955)、局部発振(UN-955)、中間周波増幅5段(MB-850A x5)、検波(MB-850A)、低周波増幅2段(MB-8502 x2)中間周波段帯域幅: 1.2MHz受信利得: 100db信号表示: Aスコープ方式(探索・測距用1基、照準用2基、各75mm SSF-75-G)測定方法: 等感度方式距離精度: 0.1km方位角精度: 1-2゜電源: 直流回転式交流発電機、入力DC24V、出力3相100V(400Hz)重量: 120kg製造: 住友、約200台(1型・2型)